e・パーセル電子宅配便 - イーパーセル株式会社

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2012年4月25日 『月刊 宝島』(2012年6月号 P126-129) 記事要約

怪しい男か?  勝算はあるのか?
            グーグル·ヤフーを特許侵害で訴えた ITベンチャー社長の「気概」

あのグーグルとヤフーを日本のベンチャー企業が訴えた!?

一体どんな会社のどんな社長が、一見無謀とも思える裁判を起こしているのだろうか。くだんの会社社長である北野譲治氏に話を聞きに行った。

 

約1年前の2011年4月。アメリカ·テキサス州で日本のベンチャー企業が大手インターネットサービスのAOL、通信大手のAT&Tサービス、そしてグーグル、ヤフーなど13社を相手に特許侵害で提訴した。そのベンチャー企業とは、イーパーセル株式会社(東京都千代田区)。

一般にはほとんど知られていない社名だが、怪しげな会社が根拠もなく世界的企業となったグーグルやヤフーを訴えているわけでは決してない。提訴から数ヶ月後には、スマートフォン「ブラックベリー」を開発·販売するRIMなど4社とライセンス契約を締結し、“戦果”を挙げている。

イーパーセルは、企業向けの大容量データ配送サービス「e・パーセル電子宅配便」を展開している。契約企業は国内に約600社。

e・パーセル電子宅配便で配送される典型的なデータがCADデータといわれるものだ。CADデータは容量が数ギガバイトに及ぶこともある。こういったエンジニアリング系大容量データをインターネット経由で配送しようとすると、配送途中で通信が途切れることも少なくない。いったん通信が途切れると、最初から配送をやり直すことになる。あるいは、ダウンロードできたと思ったデータの一部が欠損していることもある。

北野譲治·同社代表取締役社長は、「送受信双方の端末がどんな通信環境下にあっても、安定して大容量データを安全・確実に配送できることを技術的に保証しているのは、当社のサービスだけだと自負しています。」と話す。2005年には、日産自動車がe・パーセル電子宅配便を採用している。

イーパーセル社が特許侵害で提訴している米国企業
アカマイ·テクノロジーズ, AOL, AT&Tサービス, CDネットワークス, グローバルスケイプ, グーグル,
ライムライト·ネットワークス, PEER1ネットワーク, リサーチ·イン·モーション, サヴィス,
ベライゾン·コミュニケーションズ, ヤフー!, イエローページズ·ドットコム

 

 

社長は異色の経歴  ITの前は保険業界に

IT業界に身を置き、アメリカの有名企業を相手に戦う北野氏だが、ITとはまるで無縁の世界で育った。北野氏の本家は宮大工で、一族にも建築家が多い。大学は何の迷いもなく建築学科に進んだ。しかし、入ってみると自分には建築は向いていないことを痛感し、大学を出たら何か事業を始めようと決意したという。「そう決意したものの、なかなかとっかかりがつかめませんでした。何をやるにしてもまずは会社組織のことを知らないといけないと考え直し、就職活動をすることにしたのです。しかし、一つの会社に長く勤める気はない。そんなとき、アントレプレナー制度の会社を探し出したんです。」

その制度は、損害保険会社で身分の保証をしてもらいながら、保険商品を活用した経営コンサルタントとして企業できるというものだった。入社3年すれば、完全に独立することが可能だった。

入社から5年後、北野氏は保険ブローカーと資産流動化ビジネスを兼ねた会社を立ち上げる。バブル景気の頃に日本でも始まった資産の流動化ビジネスは、バブルが崩壊してからも成長を続けた。北野氏の会社は、平成不況下でも順調に業績を上げていった。「当時の稼ぎ方は、今でいえば外資系商社マンのような稼ぎ方だったと思います。このままではおかしくなるという思いが強くなっていきました。」

金融ビジネスからモノづくりビジネスへ - そう考えた北野氏は、日常の中に非日常の時間をできるだけ多く取り入れる努力をするようになる。座禅を組んで自分を見つめる時間をつくったり、勉強会という形式を取りながら現業とはまったく無関係な人脈を築き始めたりした。

 

ある技術者との出会い  IT業界へ転身

イーパーセルとの出会いは、非日常の時間で付き合いができた友人が米国に赴任していたことがきっかけだった。その友人が米国で知り合ったのが、ある優秀な日本人技術者だった。

その技術者は大手電気メーカーの防衛部門で活躍した後、1990年代初頭にMITに留学し、インターネット黎明期に遭遇した。当時はやっとインターネットが普及し始めたばかり頃だが、そこに大きな可能性を感じた彼は、96年にボストンでイーパーセルを設立。インターネットがやがて商用利用される時代が到来したときに必須となる技術の特許も取得した。

2000年の秋に日本法人を立ち上げるにあたって経営の手腕を見込まれた北野氏がイーパーセルの執行役員としてヘッドハントされたのだ。「彼がつくりあげた新たな時代を予感させる技術に魅了されたのはもちろんですが、当時、私は年齢的にも40歳を直前に控え、新たなことにチャレンジするにはぎりぎりの年齢でした。これが最後のチャンスと思い、慣れない業界に身を置くことにしたのです。」

翌2001年、ニューヨーク同時多発テロ以降のIT市場の混乱を避け、イーパーセルは本社機能をアメリカから日本へ移す。04年には、北野氏が代表取締役社長に就任した。「インターネットを単純に“通信経路”と定義してしまえば、それが普及することイコール、大々的な物流の時代が到来することを意味します。要するに、電子データの配送事業、つまり電子物流が流行るだろうと予感し、e-FedEx構想を思いついたのです。」

物流大手のFedExは、創業当時、全米の物流の動きを調査し、夜10時以降の飛行機がないため、その時間帯に飛行機を飛ばすことから全米への流通網を広げたという。「この飛行機に相当するものはネットの世界では通信プロトコルだと思い、いつでもどこでも間違いなく完全な形でデータを届けられる独自の通信プロトコルを開発し、それをビジネスのコアにしたのです。」

 

ITビジネスを網羅!?  同社の特許内容とは

電子物流サービス「e・パーセル電子宅配便」には、多くの特許技術が採用されている。大容量データを確実に配送する仕組み、利用端末の動作情報を収集·解析する仕組み、データ配送状況を送信側端末にリアルタイムに知らせる仕組み、などだ。

これらの技術は米国基本特許として11件登録されているが、今回の訴訟ではそのうち5件の特許侵害を訴えている。

たとえば、「個人の嗜好や修正、又は癖といった情報をネットワークを介して収集·解析する仕組み」(2000年取得)という特許は、インターネット検索サービスでよく見る検索連動型広告のそのものである、と同社は主張している。

創業以来、同社は投資的側面から特許侵害訴訟に関しては二の足を踏んでいた。しかし、2010年6月、米国特許運用会社と主要な特許に関する独占的ライセンス契約を締結し、翌年、特許運用会社が特許侵害訴訟を提起した。「訴訟相手を見てもらえればわかるように、おおよそ考えられるIT産業を網羅しています。それは、当時、当社がインターネットの発展の方向性を正しく定義し、その発展と進化に合わせて技術開発を行ってきた証しだと思っています。当社が保有する特許は、あらゆるグローバルIT企業が提供するさまざまな製品とサービスの根幹を成す技術であると言っても過言ではありません。」

特許侵害で訴えているイーパーセル社の米国特許
  取得年 内容の概要
1.  2000年  個人の嗜好や習性、又は癖といった情報をネットワークを介して収集・解析する仕組み。検索サービスの検索連動型広告システムなどに利用
2.  1998年  自分宛に届いたデータからダウンロード可能になったことを画面上で知らせる仕組み。アプリケーションのバージョンアップ情報のポップアップ通知などに利用
3.  2000年  ネットワークでデータを確実に配送する仕組み
4.  2000年  ネットワークの環境に合わせて圧縮率を調整する仕組み
5.  2001年  同じファイルを複数の受信者に送る場合、受信者の事情に合わせてデータ配送の優先度を最適化する仕組み

 

 

特許侵害訴訟の狙い  背景に知的財産戦略

同社が訴訟に踏み切った背景には、2007年から進めてきたという知的財産戦略があるという。「一般的にベンチャーというのは大企業と比較すると金融資産は乏しいのですが、知的資産は豊富にある。そのため、知的資産を戦略的に刺激して、それを金融資産に還元する努力をしなければなりません。具体的には、当社は5つの知的資産を持っていますが、今回はその中の一つである特許資産をライセンス料という金融資産に替える試みなのです。」

特許ライセンスを得ることができれば、それにとどまらない大きな収穫がある。同社が保有する特許技術を集約させたe・パーセル電子宅配便の実力が客観性をもって実証されるからだ。それによって、市場における製品の評価と企業価値が格段に高まる。「日本では、ITといえばグーグルやアップルといった外国企業にニュースばかりです。しかし、日本のITベンチャーにも技術力はある。今回の訴訟を通して、日本の技術力を示したかったという強い思いもあります。また、日本の風土ではベンチャーが育ちにくい。幸いにも当社は先駆的な思考の大企業の顧客に恵まれましたが、その一方で多くの大企業はベンチャーの技術を受け入れて使いこなそうという度量がなく、大手ITベンダーに丸投げしているのが現状です。日本でベンチャーが育つには、商習慣から変わっていかなければいけないと思っています。」

今回の訴訟で順調にライセンス契約が成立したとしても、訴訟費用を考えればトントンだという。同社にとって特許侵害訴訟とは、みずからの技術力を実証し、より洗練された知的資産を獲得するために必要な“自己主張”の手段なのかもしれない。

 

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