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2012年9月4日 『ダイヤモンド オンライン』記事要約

    第3回 ボーダレスに生きる日本人企業家の<人生が動き出す世界の眺めかた>
                                    イーパーセル株式会社・代表取締役社長 北野譲治(きたの・じょうじ)

        グーグルに勝利した男 - 第1回 (全3回)
                      僕がアメリカで特許訴訟に踏み切った本気の理由

日本の無名IT企業が、グーグル、ヤフー、ベライゾンなどアメリカの大手企業13社を特許侵害で訴えた。そのニュースが2011年4月に流れて以来、「無謀なヤツ」として知られるようになった〈イーパーセル〉の北野譲治社長(49歳)。今年4月にはベライゾンが、7月にはついにグーグルが、そして8月になるとAOLが白旗を挙げ、各社と和解に至っている。現在、係争中の企業は6社を残すのみ。

「僕は13社すべてと特許ライセンス契約を結べるものと確信している」と断言する北野社長の自信は一体どこから生まれてくるのか?

損害保険のトップセールスマンとしてキャリアをスタートし、28歳で起業。順調に成功を収めたものの、それに飽き足りず、37歳で会社社長のポストを捨て、一兵卒として〈イーパーセル〉の日本法人の経営に参画、41歳の時、社長に就任。

 

 欲しい車に乗りたい、それだけのためにサラリーマンの道を捨てた

「本能」に従って生きよ―

「宮沢賢治の詩“雨ニモマケズ”の最後に、ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ とあるが、君が本当になりたいモノ、本当にやりたいコトは何か」

歴代総理の指南役と言われた人生の師から薫陶(くんとう)を受けた時のことだ。僕が社会人になりたての20代前半、右も左もわからないやんちゃ坊主だった頃の話。

さらに、師は続けた。「それを突きつめたところに出てくるもの、それが“本能”だ。本能は欲望とはまったく別のものだ。徹底して欲を捨て去れ、そうすれば最後に自分の本当になりたいモノ、本当にやりたいコトが残る。しかるのち、本能に従うべし」。毎日、僕は呪文のように唱えながら、この教えを忠実に守って生きてきた。

 

 自分の人生の価値が3億しかないと知った日

僕はもうすぐ50歳を迎えるけれども、自分が本当になりたいモノ、本当にやりたいコトがすぐに見つかったわけではなかった。むしろ、そんなことを考える余裕もないまま、とにかくがむしゃらに前だけ見つめて走っていた時期もあった。

大学卒業時には安定したサラリーマンの道は捨て、すぐにでも起業したいと思っていた。その動機はいたって単純かつ不純で、「フォルクスワーゲン・ゴルフ/カブリオレに乗りたいと思ったから」。今と比べると円安の所為だろうか、1980年代当時で確か500万円近くもした車だったから、新入社員の給料では何年かかっても買えやしない。ここは事業でも起こしてガツンと稼ぐしかないと考えたわけだ。いくら若気の至りとは言え、今、冷静に考えると恐ろしい。

時はバブル景気の真っ只中、そんな欲望を満たすことは決して難しい時代ではなかった。でも、車を手にした瞬間の満ち足りた気分が続くことはなかった。何かが違っていた。そう、欲しいモノを手にすることを目的にして働く、それがどうもしっくりこない。自分が本当にやりたいコトとは明らかに違っていたのだ。

90年代の後半だっただろうか、親しい先輩から何気ないがきつい一言を浴びせられた。「北野さぁ、お前の夢って、何だ?」。突然のあらたまった質問に何も答えられなかった。すると、「どうせお前のことだから、都心の一等地に家を買って、高価な背広とシャツと靴が欲しいだけあって、格好いいスポーツカーと高級なセダンを何台か乗り回せれば、夢は叶うんだろ、何とも安いもんだな! お前の一生なんか、2、3億あれば買えてしまうな」。

なんと失礼な! でも、それが、僕の一生がお金に換算された瞬間だった。なぜか背筋がピンと伸びた感触を今も体が覚えている。

「衣」「食」「住」は、身の丈に合っていれば背伸びしなくていい。背伸びしてでも頑張るべきは、お金に換算できない価値を実現することだ。漠としているが方向感はそれでいい、と直感した。人生の師といい、この先輩といい、僕のまわりは、僕が迷っている時に進むべき方向を示唆してくれる絶対的信頼感のある人で溢れている。ありがたい。もったいない。

 

 「垢」を落として、見えてくるもの

欲を捨てることを座禅の世界では「垢を落とす」という。

僕は十年来、座禅を続けている。普通に生活をしていれば、時間が経つと自然と「垢」が溜まるものだ。そんな時、決まって谷中の全生庵(ぜんしょうあん)に車を走らせる。わずか40分だが、心静かに座らせてもらう。だいたい月に2、3度は全生庵の門をくぐっているだろうか。

ご存知の方も多いだろうが、全生庵は、明治の時代に幕末の偉人、山岡鉄舟(やまおかてっしゅう)居士が建てた寺で、昭和の時代に入ってからは、中曽根康弘さんが総理の任にあった頃、「垢」を落としに毎週末通った寺として、僕らの世代にも知られている。

「垢」とは何か? それには当然、欲も含まれるけれど、実際はもっと複雑なものかもしれない。例えば、煩わしい人間関係や利害関係、カネの絡んだ問題に、それらが一緒くたになった外的な厄介事。一方、「人より優位に立ちたい」とか「人から評価されたい」といった内的な思い。誰しも物事を判断する時、そんなことが脳裏をよぎるものだ。判断すべき軸足があまりにも多くなりすぎて、正しい判断や行動ができないものだ。そういう一切合切が「垢」なのだと思う。

「垢」を落としてさっぱりすると、物事の見えかたが変わってくる。人間関係や自分が置かれた状況が変化しようとも、まっすぐに揺るぎなく立っている物事の「本質」のようなものが見えてくる。僕の場合、あらゆる「垢」を徹底的に落としきって最後の最後に残ったものが、「世界を変えたい」という欲望だった。やっと、本当にやりたいコトが見つかった。初めて師の言葉が素直に胸に沁み入った瞬間だった。今は亡き師に心から感謝している。

〈イーパーセル〉との出会いは次回(9月18日)掲載号に譲るが、そのビジネスモデルは、リアルな物流をインターネットの物流に置き換える「ネット上の国際物流会社」と言ってしまえばわかりやすいだろう。お客様が持っている秘匿性の高い大容量データをネット上でセキュア(安全・確実)に配送する電子物流サービスを提供している。世界で初めてその事業化に成功した会社と思ってもらっていい。

 

 仕事は町工場の頑固職人と同じ

僕たちの日々の仕事はIT業界のイメージとは真逆で、いたって地味。

日本国籍のグローバル企業の多くは積極的に発展途上国に進出しているが、そういう国や地域では例外なくネットワーク環境が極めて劣悪だ。さらに、スコールのような気象現象が起こると、当たり前のように回線がプツッ、プツッと頻繁に途切れてしまう。

そんな劣悪な通信環境は、時に現場の最先端でトラブルを発生させてしまう。遠く時差のある国や地域で頑張る日系企業にとっては、このトラブルがどれだけスピーディーに解消されるかが大きな意味を持ってくる。だから、僕たちはすぐさまソフトウェアに改良を加えて現場にフィードバックする。ただ、それを愚直に繰り返していくだけ。

そんなことができるのも、そのソフトウェアが混じり気なしの純粋な「手づくり」で、僕らが中身のすべてを理解しているからだ。

僕たちの仕事は本当に目立たない。でも、目立つ必要はない。裏方でいいのだ。ITベンチャーというと派手なイメージを持たれがちだが、その実態は、日本の強みである摺り合わせの技術、すなわち、“匠の技”での勝負に他ならない。その様はさながら、町工場の職人がオリンピックの砲丸投げ競技で使う鉄球を作っているようなもので、その球体のど真ん中にピタッと重心が来るように旋盤で削っていく技術と相通ずるところがある。

 

 リーマンCIOの揺るぎないプライド

〈イーパーセル〉は、もともと1996年にボストンで創業した会社で、同社製品の大規模採用第一号は、ニューヨークに本社を置く大手投資銀行グループ〈リーマンブラザーズ証券〉だった。この巨大投資銀行が、IBMやマイクロソフトのような誰もが知る大企業ではなく、無名のITベンチャーの製品を採用したのだ。

その時、リーマンのCIO(最高情報責任者)が口にした言葉が、アメリカの強さを物語る。「君たちの技術が、今、世界の最先端を走っていると思うので採用を決めたい。しかし、いつか2番手に落ちることがあれば、その時は採用を見直させてもらう。だから、徹底的に技術力を上げ品質を向上させて欲しい」。

リーマンのCIOのスタンスは明確だった。「自分たちがいいと認めたモノは、勇気を持って採用のリスクを取る。そして、それを使いこなすことで、より一層いいモノにしていく」。

リスクを取ることの意味を正しく理解する人は、ベンチャーと接する姿勢が明らかに違っていた。誰も見向きもしないような技術や製品であっても、自分たちが「これは!」と評価したものにはためらわず投資をする。そういうシビアだが極めてフェアな姿勢が貫かれていた。

リーマンのCIOが教えてくれたこと、それは、“企業の成長にとって、リスクを取らないことが最大のリスクである”という事実に他ならない。これこそが、アメリカという国家の懐の深さと強さだと痛感した。

 

 日本企業のブランド志向が足を引っ張っている

ひるがえって日本の大企業はどうか。経験の限りでものを言うが、多くの場合はブランド志向に首までどっぷり浸かっている印象が強い。彼らは大手メーカーからの提案は無条件に信頼するが、無名のベンチャーが提案する製品は評価することすらしない。門前払いと言ってもいい。

日本のマーケットは、先進的で、独創的で、産業構造を変革する力を持った技術ベンチャーを育てなければいけない。その環境を一日も早く整備しないと、世界を相手に戦える日が訪れることは、もう二度と期待できない。

僕らは事業開始以来、「世界を変えたい」という志でマーケットと対峙してきた。そして、「いつかはマーケットが理解してくれるだろう」と自分らに言い聞かせて頑張ってきた。

でも、僕らには、もうこれ以上の時間の余裕はない。誰かが日本のマーケット環境を劇的に変えてくれると期待してはいけないし、そんな何の保証もないことに僕の人生の一番旬な時期を捧げられるわけがない。

人が大きな仕事を成し遂げるには、才能とか努力とか、時には運も必要なのだろうが、もっと大切なことを忘れてはいけない。その人が「旬」な時期を迎えているかどうか、だ。今、僕はとても充実して仕事に取り組んでいる。前だけを見て走り続けてきたここ数十年の間に、一流を目指す「志」や「信念」、あるいは「理想」というものが、それなりに熟成されてきたのだろう。ならば、変わるのを待つのではなく、今こそ自分の力で思ったように変えてみればいい。本気でそう思った。

 

 僕がアメリカで特許訴訟を起こした本気の理由

ニュース報道でご存知の人もいるだろうが、2011年4月、僕らはグーグル、ヤフー、ベライゾンといったアメリカの大手企業13社を特許侵害で訴えた。和解によって得られる収入(特許のライセンス料)から、僕がそれにたずさわる時間や実際にかかるありとあらゆるコストを差し引けば、生産性はひどく低い。そもそも僕は争いごとを好まない性格なので、昔から僕を知る親しい友人は、僕が訴訟を起こしたと聞いて相当驚いていた。

ならば、なぜ? アメリカの舞台を借りて、今や世界経済の牽引役たる大手IT企業を相手に特許侵害で戦うことこそが、日本のマーケットを変えるために僕らにできる唯一のアクションだった。〈イーパーセル〉の技術が、グローバル・スタンダードであると実証すること、その一事に賭けてみた。

日本の大企業の多くは、グローバル・スタンダードの製品を欲しがる。ところが、彼らの言うグローバル・スタンダードとは「欧米の大企業が選んだモノ」という意味で、自分たちでグローバル・スタンダードを定義することはない。

だったら、世界経済を牽引するアメリカの大手IT企業が提供する製品やサービスの根幹技術に、〈イーパーセル〉の特許技術が使われている事実を証明し、それをマーケットに周知させればいい。そう考えたわけだ。

大筋の結果は読み通りだった。生き残りを賭けて止むに止まれぬ状況で僕らが抜いた「伝家の宝刀」は、ある一定程度の成果をもたらしてくれた。既存のお客様からの評価がより一層高くなったこと、まだ取引がない大手企業からの問い合わせが相次いでいることがそれを証明している。

今では、〈イーパーセル〉の名前はIT業界の人に限らず、様々な業界の人たちの知るところとなった。例えば、「国産ベンチャーの〈イーパーセル〉」「技術ベンチャーの〈イーパーセル〉」「世界と戦う〈イーパーセル〉」「知財で戦う〈イーパーセル〉」というように、各々がいろんな冠を付けて〈イーパーセル〉を記憶に留めてくださっている。

この程度には認知されるようになったのだ。僕が挑戦した「ブランディング」と「マーケティング」の戦略は、それなりに功を奏したと評価をしている。でも、僕の仕事はまだまだ終わっていない。終わっていないどころか、やっと、「一丁目の一番地」に差し掛かったあたりだと感じている。

つまり、アメリカという舞台を借りて実践してきた僕らのチャレンジが、今後どのように「世界を変える」のかを見守らなければいけない。日本のマーケットがベンチャーを育てられるかどうか、が懸っているのだから。

ベンチャーが得意とする「尖った技術」は、世界を変える大きな可能性を秘めている。しかし、その「尖った技術」を既存のシステムに馴染ませてくれる大企業の存在なくしては、革新は実現しない。膨大な経験値を持つ大企業が、ベンチャーの技術を磨き続け、日本発のグローバル・スタンダードに育て上げていく。そんな日が訪れることを僕は心から願っている。

続く... 2012.9.18号 第2回

 

ダイヤモンド オンライン 2012.10. 2 /グーグルに勝利した男(3)

ダイヤモンド オンライン 2012. 9.18 /グーグルに勝利した男(2)

ダイヤモンド オンライン 2012. 9. 4 /グーグルに勝利した男(1)

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